データ分析とインテリジェンス

データ分析に関わる全ての人に・・・『大本営参謀の情報戦記』に学ぶデータ分析(1)

■データ分析に関わる全ての人の必読書

『大本営参謀の情報戦記』という本がある。戦時中に大本営参謀、フィリピンの第14方面軍の情報参謀、戦後は自衛隊の統幕第二室(情報室)室長と、情報を専門にしていた軍人である堀栄三の回顧録であり、著者が情報参謀としてどのように考え、活動したかを中心に、

  • ・情報の読み方、情報参謀としての在り方
  • ・情報を求めず、あっても無視する上層部
  • ・情報も補給もなしに戦う最前線部隊の様子

が描かれる。現場の参謀としての視点だけ(戦争物の書籍には実に多い。悪いとは言わないが偏りすぎである)ではなく、日本軍の情報軽視ぶりや、情報教育についてなど、広い視野から示唆に富む記述が多いのである。そしてこれを現在のビジネスシーンに当てはめてみると

  • ・データの読み方、データアナリストとしての在り方
  • ・データを求めず、あっても無視する上層部
  • ・データも裏付けもなしに送り出される営業の様子

と、そのままそっくり当てはまってしまう。軍隊から企業に形を変えても、日本人の情報についてのリテラシーが数十年前から変わっていない様子がよくわかる。なのでこの本を読むことは、データ分析に対する意識の低さと、そのことが引き起こす問題について認識する良い機会になる。そしてデータ分析が現場だけで完結する話ではない以上、経営者から現場まで、データ分析に関わる全ての人にとっての必読書と言っても過言ではない。

名著で学ぶデータ分析シリーズでは、本文の中から情報に関するを拾い、コメントをつけていく形式で進める。『大本営参謀の情報戦記』を最初に選んだのは、他でもなく最も読む人にとって効果が高い(内容が素晴らしく、読みやすい文章で、手軽に手に入り、しかも安い)からである。

少しでも興味を持ったら今すぐ買って、みんなに配ろう。文庫の新品でも1冊高々700円である。失敗したところでたかが知れている。もちろん一番読まなければいけないのが経営者であることは言うまでもない。

それでは、まえがきから見ていく。

■情報の任に携わる者の最重要な仕事

実際の戦場では知りたい情報の半分にも満たない情報で、敵の意中もわからないままに、暗中模索の中で戦いを進めていることがざらである。従って、百パーセントに満たない空白の部分を、どのようにして解明し、処理していくか、これが情報の任に携わる者の最重要な仕事である

戦場=市場、敵=競合・顧客、戦い=ビジネス、情報=データ分析(あるいはインテリジェンス)と置き換えれば、現在のビジネスにおいてもそのまま通用する。まえがきにして本質である。市場全体がどう動いて自社にどのような影響がでるか、競合が次に何をしてくるかを予測したり、顧客はなぜその商品を買うのかを理解することは難しい。難しいのだが、長期的に丹念に資料を集め、それを徹底的に冷めた目で分析し、最後には経験と勘でその隙間を埋めるよう試みるのがデータアナリストの仕事であり、その専門性に価値がある。

続いて著者は述べる。

しかも戦場での情報の分析解明は、研究室の学問的研究と異って、いつまでに判断をして答えを出せという時間的制約が、非常なまでにつきまとう。(中略)しかし戦争の諸データーを完全無欠に入力することはまず不可能である。

競合相手がこちらの準備が整うまで待ってくれるわけはない。相手が数か月後に新商品を出すという兆候が出たら、どのような商品なのか、対抗するには何をすべきかという情報は、それよりも早く出さねばならない。事が起きてからではどのような素晴らしい分析であっても価値がないのである。

さらに以下の文章が続く。

たとえ五パーセントでも空白の部分が残れば、この霧の中に隠れた実像を解明することの困難さに変りはない。この空白の部分を、手に入れた情報からいかなる視点で解明して、定められた時期までに所定の判断を作りあげていくかが情報戦士の仕事である。

これらの文章は軍人でなく、現代のビジネスマンが書いたと言われても全く違和感がない文章である。情報の分析というのは軍隊からビジネスまで、もっと広く言えば国家から個人まで、共通する部分があるということであろう。

■情報の仕事の実態

しかし戦場での情報戦士の仕事は、もっともっと地味であり、学校で習ってすぐに一人前になれるものでもない。一種の職人仕事のようなものであり、積み上げた知識と経験にもとづく、体で覚えた「職人の勘」のようなものが必要不可欠である。

もっともっとと比較しているのは、スパイや暗号解読などスリルに満ちた物語として書かれている姿に対して、実際の情報の仕事は地味であるということを言っている。実際データ分析というのはコンサルタントやマーケターと違って目立つこともなく、成功したからといって賞賛されるわけでも名声が手にはいるわけでもない。もしかしたら職人よりも地味な仕事かもしれない。

そしてデータが与えられ、そのデータを集計・分析することだけで何かが解決すると言っているのは、よほど勘違いしているかデータ分析の実務経験がなく、教科書で学んだだけの人である。データ分析の結果を正しく読み解くには、データに表れない部分を読む必要があり、そのためには著者の言う「積み上げた知識と経験」無しには不可能である。

例えばPOS分析をするにしても、いつ何を買ったかわかったからといって、そのデータの集計結果から見えるものだけを見ていてはいけない。顧客がなぜその店を選び、店内のどこを見て、何を欲しがり、何を買わずにいたかはPOSデータからは解らない。店舗の知識、商品の品ぞろえ、オペレーション、競合の様子、立地など様々な要因があり、実際に見たり聞いたり経験していなければ解らないこともたくさんある。その部分を無視して、いつこの商品が売れたから次も売れるなどという「分析」など何の役にも立たない。しかし、この役に立たない分析がまかり通っているのが実態である。

1つの企業、1つの問題のために本物の情報を作り出すためには、それ相応の時間と経験による裏付けがなければならない。入門書を数冊読んだ程度でいかにも知っているフリをすれば通じる世界とは、本質的に違うのである。

次回:(2)・・・無視された情報教育

『大本営参謀の情報戦記』に学ぶデータ分析 目次

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