データ分析とインテリジェンス

無視された情報教育・・・『大本営参謀の情報戦記』に学ぶデータ分析(2)

■存在しない情報教育

それまでの堀の軍歴の中に何一つ情報に関係した仕事はない。陸大でも情報のための教育を受けた覚えは想い出せなかった。

以後、ページ数は文春文庫版を元にしている。陸大を卒業後にそのまま大本営参謀となり、第二部(情報部)付となった著者が当惑している様子である。陸大卒業生と言えば、当時のエリート中のエリートである。にも関わらず、情報に関する教育を受ける機会が全くなかったということに驚かされる。

現在のビジネスに当てはめれば、MBA卒業生といったところであろうか。MBAもこのあたりは似ていて、分析のフレームワークは教えても、どのように情報を集めるかや、情報と企画の分離などについて教えていないようである。少なくとも日本語で読めるMBAの書籍において、分析フレームワーク以外で情報について触れているのを見たことがない。あえて教える必要がないぐらいの常識であるからなのか、情報を軽視しているからであるかは不明であるが。

■情報とは仕草をつかむこと

情報は結局相手が何を考えているかを探る仕事だ。だが、そう簡単にお前たちの前に心の中を見せてはくれない。しかし心は見せないが、仕草は見せる。その仕草にも本物と偽物とがある。それらを十分に集めたり、点検したりして、これが相手の意中だと判断を下す。

これは著者ではなく、著者の父である堀丈夫が著者に語った言葉である。堀丈夫も陸軍軍人(最終階級は陸軍中将)であり、2・26事件当時の第一師団長でその後予備役になっている。情報についてはほとんど経験がないと述べているにも関わらず、情報についての理解があることが伺える。陸大を出ていない無天組であるからこそ、自分の考えが常に正しいなどという傲慢さにとらわれなかったのかもしれない。

仕草とは徴候と言い換えてもよく、例えば新聞・雑誌・WEB・セミナーなどで社長や社員が話をしていることや、個人のプロフィールから次に何を仕掛けてくるかを予測する、といったことである。もちろん戦争とは違い、嘘やでたらめで相手を騙そうすることはビジネスでは許されることではないが、表向きに言うこととは別に、より重要なことが裏で行われているということは考えられる。見える部分にだけに捕らわれては良い分析はできないのである。

■陸軍参謀教育の実態

戦術教育の中でも不思議なことに、作戦と後方補給の教育は各種の想定のもとでかなり教育されたが、情報参謀の教育は皆無であった。(中略)情報をいかにして集め、いかに審査し、いかに分析して敵情判断に持っていくかという情報の収集、分析の教育は、陸大教育の中にはまったくなかったのである。

まったく驚くべきことだが、徹底した情報無視である。情報が重要であるという問題意識がそもそも存在していなかったとしか思えない。それに補給について教育されたと著者は言うが、それでは南方やインパール作戦のような惨状はなぜ起きたのだろう。ましてや教育すらされていない情報がまともに機能するわけがないではないか。

しかし現在でも、データ分析について社員を教育している企業がどれだけあるというのか。作戦=企画と当てはめてみれば、日本軍の情報軽視とまったく同じ構図だ。経営者から現場まで、自社や自分にとってのみ都合のよい解釈で作った企画のせいでどれだけの社会的損失が生まれたかを考え、改める時期に来ているのではないか。

積極果敢型を望ましい指揮官像と見做し、思考堅実型を斥け、情報マン養成の人事が軽視された。(中略)情報が如何にして求められ、審査や評価されたかは不問に付され、与えられた情報はすべて真実であるとして受け入れられていた。

これは著者の言葉ではなく、著者の上司にあたる情報部英米課の課長である杉田一次大佐が戦後に書いた『情報なき戦争指導』からの引用である。

声の大きな人、押しの強い人、根拠や内容は無くても自信満々に話す人が評価され、じっくり考えて答えを出す人が小さくなっている様子が見てとれる。結局のところは軍でも企業でも、同じ文化で育った人達が、同じ事をし続ける。いったいどうしたらこの馬鹿げた繰り返しを断ち切ることができるのだろうか。

次回:(3)・・・報いを受けるのはいつでも最前線

『大本営参謀の情報戦記』に学ぶデータ分析 目次

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