データ分析とインテリジェンス

データ分析プロセスの全体像「インテリジェンスサイクル」とは

■データ分析プロセスの全体像「インテリジェンスサイクル」とは

一般的にはデータ分析と呼ばれているが、実はインテリジェンスサイクルと呼ばれる一連のプロセスとして整理される。このサイクルは、「何をしたいのか」という目的の決定から始まり、作り出されたインテリジェンスが消費され、情報サイドへのフィードバックを持って終わる。このインテリジェンスサイクルを知ることで、データ「分析」と呼ばれる行いが、実はインテリジェンスサイクルの一部であり、それだけを切り離して考えることはできないということがわかる。

intelligencecycle
図:インテリジェンスサイクル

すでにインテリジェンスサイクルをご存じであれば、これから展開する内容、特に、情報サイドから意思決定サイドへの関与を容認している点に違和感を感じる部分があると思われる。これはインテリジェンスサイクルの議論が国家や軍などのレベルではなく、ビジネスでの利用であるということ、また、日本のインテリジェンスリテラシーの低さから情報と企画(作戦)を分離することへの理解がまだ浸透していないことを考慮している。それ以外については通常の議論と同様である。

ここから各フェーズについて説明していく。全体像を見るためのモデルなので簡略化されているが、実際にはフェーズごとに様々な問題が発生することになる。ここでは大まかな流れを説明し、個別の問題については追加した後に都度リンクを追加する。

■1.目的の決定

「データ分析」すなわちインテリジェンスを作り出すことの最初のステップは、意思決定サイドが「何のため」であるかを明確にすることである。目的があいまいだったり、ましてや決まっていなければこの後の作業は全て無駄になる(偶然ニーズに合うことはあり得るが、あくまでも偶然)。

目的が明確であっても、その目的そのものが間違えていればどうしようもない。優先順位を間違えて先にやるべきことをやらない場合はロスが大きくなるし、儲けにはなるが社会的に考えて望ましくないような内容であれば社員の士気を下げたり長期的に見て企業に良いことはない。常に目的を正しく持っているかは問い続けなければならない。

考えるべき問題

  • ○その目的は正しいのか

■2.要求

意思決定サイドから情報サイドへ、「何が知りたいか」を伝えるフェーズ。情報サイドが意思決定サイドの考えや希望を全て理解しているわけはないので、「利益を上げる方法」などではあいまいすぎて、的外れな結果を出すことになる。どこまで具体的であるかは重要な議論のポイントになる。

また、意思決定サイドと情報サイドの重要なコミュニケーションが必要である。情報サイドは意思決定サイドの求めるものを正しく把握し、この段階で何をどのように分析するかと、納期を決める。

目的そのものについて情報サイドへ伝えるかどうかは場合による。会社の存亡に関わる重大な決断のためであれば、全てを開示することは難しいだろうし、より販売を強化するため、というような業務レベルであれば開示することに問題はないし、むしろ議論を促すことでより良いアイデアを生み出すことができるかもしれない。

もし情報サイドがより効果の望める方法を知っていたり、目的そのものが間違えていると考えられる場合、目的の決定について情報サイドがどこまで踏み込むべきなのかは議論の余地がある。本来、情報サイドはこの目的の決定は関与してはいけない、というのはインテリジェンスの基本中の基本で、インテリジェンス担当の存在理由でもある。しかし、このことが成り立つためには意思決定サイドと情報サイドが同じ認識に立っていなければ成立せず、日本のインテリジェンスに対するリテラシーの現状を考えると非常に難しい。したがって、情報サイドからのある程度の投げかけは許されるのではないかと考える。

考えるべき問題

  • ○要求はどの程度具体的であるべきか
  • ○情報サイドへの目的の開示はどうするか
  • ○情報サイドからの関与はどこまで
  • ○優先順位の決め方
  • ○具体的でない要求への対応
  • ○無茶な要求への対応
  • ○要求が無い場合どうするか

■3.収集

続いてデータの収集を行う。この段階ではすでに必要なデータは決まっているはずなので、あとはそれを集めればよいのだが、必要なデータが必要な分だけ集まるということはまず無い。多すぎ、少なすぎ、欠けているなどなど様々な問題が起こり得る。最悪の場合、データの取得ができないことが発覚し、要求を満たすことができないことがこの時点でわかることもある。その場合は意思決定サイドに対して要求を満たせないことを伝え、方法を変えるか、要求そのものを変えるかを検討する。

データによっては要求が出されてから集め始めるのでは間に合わないこともある。例えば競合が何を考え、何をしてくるかを予測しようとしたら、過去の新聞・TV・雑誌・Webなどの情報から断片を普段から集めておく必要があるし、セミナーや展示会での発言や発表の場合は、後で調べようと思ってもできないか、できても膨大なコストが必要になるだろう。したがって、インテリジェンス担当者は普段からコミュニケーションを取り、収集しておくべきデータを検討しておかなければならない。

だからと言ってなんでもかんでも集めておくのは無駄であり、課題が見えないうちから「いつか使うかもしれない」ことを期待して収集されるデータが使われることはほとんどない。それはため込むためのツールやシステムを売りたい側が作り出した幻想にすぎない。むしろ「せっかく集めたのだから使わないともったいない」から始まる一連の流れによって余計な仕事が増えるだけになる。

考えるべき問題

  • ○取得しておくデータと、そうでないデータ
  • ○データが取得できない
  • ○データは取得できるがコストや時間がかかる
  • ○データに欠陥がある
  • ○データ量が多すぎて処理できない

収集については情報収集論・目次と概要にまとめがある。

■4.分析

データの収集が出来たら、次は分析である。どうしたら良い分析ができるのかは非常に難しい問題である。分析の手法については専門家による説明などがすでに数多くあるのでそちらを参照のこと。

分析の途中であっても緊急を要する情報が出た場合や、当初の予想と大きく外れた結果が出てきた場合などは早急に意思決定サイドに伝えなければならない。

データ「分析」と言うとこのフェーズがことさらに強調されていることが非常に多いのだが、実際には見ての通りプロセスの一部であり、分析だけを切り離すことはできない。特にデータアナリストは、プロセス全体を動かす人(インテリジェンス・マネジメント)がいない場合、自らがその役割を担うことになるので理解しておいて損はないし、キャリアの幅を広げることができるだろう。

考えるべき問題

  • ○効率的な前処理について
  • ○「今あるデータを使って何かできないか」が失敗する理由
  • ○「せっかくツールを導入したのだから使いたい」が失敗する理由
  • ○「新しい理論を勉強したので使ってみたい」が失敗する理由

■5.評価

分析されたデータは、そのままではまだインテリジェンスとは呼べない。評価して、意思決定に使えるようになって初めてインテリジェンスとなる。リサーチや報告書で、集計した結果の事実だけを述べる場合があるが、これでは使えないのである。クライアント側のインテリジェンス担当者が評価を行うために事実の提出のみを希望している場合は別であるが、そうでなければ評価を加えなければその価値は無いに等しい。そのためには、要求のフェーズで情報サイドの役割についてきちんとコミュニケーションしておく必要がある

評価を行う際に最も重要なことは、徹底的に冷静な目で客観的に情報を評価することである。特に自社の利益が絡むような場合は要注意。クライアントのためではなく自社にとって都合の良い解釈をしがちである。また、自分が良いと思う方に意思決定を誘導するために捻じ曲げてもいけない。分析や評価を誤る要因は数多いが、理解しておくことでより良い評価ができるようになることが期待できる。

考えるべき問題

  • ○どうやったら妥当な評価ができるのか
  • ○どうして分析を間違えるのか
  • ○仮説思考は使うべきなのか

■6.伝達

作成されたインテリジェンスを、意思決定者に伝える。口頭なのか資料にまとめるのか、まとめるとしたら簡潔か詳細かなどは受け取る側の好み次第なので、フィードバックを受けながら修正していく。

伝達で重要な点は、必要な時に届けることであり、遅すぎては意味が無いということである。より多くのデータを集める、詳細に分析する、解り易い報告書を作成することに時間を取られて意思決定者が必要な時にインテリジェンスが届いていないのでは元も子もない。情報サイドは要求の段階で納期を決めたらそれを守らねばならない。間に合わない場合は途中であっても提出するか、可能であるなら早めに納期の変更を行うかの交渉を行うこと。

伝達の際に情報サイドの提案を入れ込むことは行ってはいけない、というのがこれも基本であるが、目的の決定と同様の理由でいくらかは許されるだろうし、実際問題として行わなければならないだろう。リテラシーの低い人に対して何の提案もしなければ「言われたことしかやらない」という評価が待っているだけである。

考えるべき問題

  • ○悪い情報、都合の悪い情報をどのように伝えるか
  • ○データアナリストの倫理的責任
  • ○誰のためのインテリジェンスなのか

■7.消費

伝達されたインテリジェンスは使われなければ意味がない。かといって、インテリジェンスを全て正しいと受け入れて使わなければならないというわけでもない。経営に関わる重要な意思決定の場合、情報サイドに伝えられないこともあるだろうし、提出されたインテリジェンスが間違えている可能性もある。インテリジェンスを無視して失敗した例は古今東西限りなく多いが、盲信することもまた同様に危険である。

また、インテリジェンスを用いて意思決定しても実行されなければ、やはり無意味である。実行する気がない、あるいはどのようなインテリジェンスが提出されても結論が決まっているような場合、インテリジェンスの作成そのものが無駄である。

考えるべき問題

  • ○インテリジェンスはどこまで信じることができるのか
  • ○分析が無視された場合の対処について

■8.フィードバック

何が良く、何を改善すべきかを情報サイドにフィードバックすることで、改善を図る。著者によってはフィードバックはおろか消費のフェーズにすら情報サイドは関与せず、提出したインテリジェンスがその後どのように使われたか知らないという記述をしている場合もあるが、フィードバックがあれば次回以降の改善に活かすことができるので、あったほうが良いだろう。

■インテリジェンスサイクルは一方通行ではない

以上がインテリジェンスサイクルの説明である。実際の業務では収集の途中で必要なデータが取得できないことが明らかになり、知りたいことを知ることができないので要求をやり直す、分析の途中でデータが足りないことに気付いたので収集に戻る、あるいは緊急に対応しなければならない新事実が出てきたので目的そのものを再検討する、などということが頻繁に起こる。つまり、最初に決めたからと頑なになるのではなく、柔軟な対応が必要である。

■インテリジェンスサイクルは全ての基本

インテリジェンスサイクルは、意思決定サイド(主に経営者・経営企画・マネージメント)・情報サイド(データアナリスト)の双方にとって理解しておくべき基本である。意思決定サイドにとっては情報サイドが何をしているかの理解につながり、情報サイドにとっては分析だけに視野が狭まってしまうことを防ぐ。

データ分析を考える際には、分析から考えるのではなく、まず「何をしたいのか」から始めなければならない。その理由は、結局のところインテリジェンスの存在理由は意思決定を支えるためであり、意思決定を行うのはある目的を叶えるためだからである。何が知りたいかを明確にせずに行ったデータ分析は全て失敗する。例外は、何が知りたいかわからずに出した結果がたまたま目的に叶った場合でこれは成功ではなく偶然と言う。

意思決定サイドであっても情報サイドであってもデータ分析を行う際にはこのインテリジェンスサイクルを思い出してもらえれば、常に基本を忘れず、より良い結果が得られるであろうということを確信する。

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タグ:データ分析プロセス インテリジェンスサイクル


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