データ分析とインテリジェンス

どんな名案でも実行力不足で水の泡になる・・・中国の古典『史記』に見る情報の失敗(2)

■どんな名案でも実行力不足で水の泡になる

「あぁ、豎子はともにはかるに足らない。項羽の天下を奪うものはかならず沛公(注:劉邦のこと)だ。一族はそのうち彼の虜になろう」

劉邦が将来大きな障害になるだろうことを見抜いた軍師である范増の提言により暗殺を考えた項羽であるが、結局実行できずに劉邦に逃げられる。それに呆れた范増の嘆きである。実際に数年後には項羽は戦いに敗れて烏口にて命を落とすわけだが、もしこのとき劉邦を殺していたらどうなっただろう。この場合、実行が不可能な提案ではなく項羽さえその気になればいつでも劉邦を殺せるところだった。どんな提案であっても、実行力が伴わなければ水の泡になる例である。

ところで項羽が劉邦を殺さなかったことについては決して人道的な理由ではない。実際項羽は

  • ○反乱を起こす際に会稽の守である殷通を首を切る
  • ○その時騒いだ数十人を打ち殺す
  • ○趙の救援に向かうも途中で動かない宋義(上司)を殺害して兵権を強奪
  • ○降伏した秦の兵20万人を穴埋め
  • ○投降した秦の王(胡亥の後を継いだが皇帝を名乗っていない)を殺害
  • ○「『楚人(項羽のこと)は猿が冠をつけただけ』というがはたしてそうであった」といった男を煮殺す
  • ○傀儡として立てた義帝を部下に命じて殺させる
  • ○劉邦の身代わりとなって偽の投降をした紀信を焼き殺す

という実績(?)がたくさんあるので、殺すこと自体に躊躇があるとは思えない(ちなみにこれとまた別に通常の戦闘による分がある)。劉邦が詫びを入れたことで決意が鈍ったのか、范増が合図をしても応じていない。決めたことが実行できないことはそれだけで1つのテーマとなるぐらいだが、取り返しのつかない失敗もあるのだ。

■反間の計に引っかかって軍師に去られる

項王(注:項羽のこと)の使者が来たので、大牢(注:ご馳走の意味)の用意をし、これを進めようとしながら、使者を見るとわざとびっくりしたふうをして、「わたしは亜父殿(范増)の使者だと思っていましたのに、項王の使者でしたか」と言い、料理を持ち去って別の下等な食事を項王の使者に食べさした。

この計略に引っかかった項羽は范増を疑い、権限を取り上げる。怒った范増は項羽の下を去り、帰路の途中で背中にできものが出来て死んでしまう。

今後も出てくるが、中国史にはこのように敵国の力を削ぐために君主と臣下を離反させたり、自分の権力のためにライバルを追い落とすという話が非常に多い。日本だとせいぜい左遷で例えば菅原道真が有名だが、向こうの場合はレベルが違い負けたら一族皆殺しである。ビジネスではいきなり殺されるとかは無いにしても、どこからともなく聞こえて来る人の悪口を聞いて、自分で見たわけでもないのに疑ったり遠ざけたりする経験は誰にでもあるのではないか。後から見れば騙される側を笑うのはたやすいのだが、もしかしてそれは誰かが誰かを貶めるために意図的に流しているのかも?と考えるリテラシーがあると違うものが見えてくるかもしれない。

今回は情報分析というよりも、提案を基にした実行と、敵の判断を狂わせるためのいわゆる謀略の話になったが、インテリジェンスと言ってもこれらのように幅広い(その他にも情報を取られないための防諜・カウンターインテリジェンスという分野もある。ITで言う情報セキュリティはその一部)。もちろん情報の分析と、その分析が無視されることが中心になる予定がだが、今回のような周辺分野も取り上げていきたい。

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タグ:中国の古典『史記』に見る情報の失敗


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