データ分析とインテリジェンス

ビッグデータ・ベースボール

■書評・感想・・・マネー・ボール再び。分析に関わる経営者・マネージャーと分析者には必読の一冊となるだろう。

20シーズン連続負け越しのピッツバーグ・パイレーツが、データ分析によりそれまでの野球の常識を覆したまったく新しい視点から再評価したことで落ちぶれていた選手たちをよみがえらせ、ついにポストシーズン進出を果たす。というのが大筋で、いわば『マネー・ボール』の再来である。テクノロジーや手法は進化しても本質に変わりはない。

マネー・ボールといえばちょっと前に映画にもなり、書籍も結構売れたようで話題になっていたが、本書は同様の流れをんだ「ベースボールにおけるデータ分析」に関する書籍。マネー・ボールが主人公であるオークランド・アスレチックスのGMビリー・ビーンを中心に描いていたが、本書はGMだけではなく監督、コーチ、プレイヤー、そして分析者ともっと多様な視点から描かれている。

野球のルールを知らなくてもビジネスにおけるデータ活用を考える上ではさほど問題にはならない。中盤以降はほとんどシーズン中のゲームの話なので解らなかったり興味がわかなければ読み飛ばしてもかまわないだろう。ただし第12章は読んでおいた方がいい。

分析に取り組もうとする人が現れ、分析が行われ、現場が反発し、その中にも少ない理解者がいて、効果が出始めると周りも徐々に認めていき、最後は結果を残してめでたしめでたし、と基本的な流れは同じであるが、マネー・ボールと同様「分析に取り組もうとする人」が経営者・マネージャークラスであるところに本質がある。いくら現場がデータ分析の重要性や可能性を説いたところで結局のところ経営者・マネージャーに却下されてしまえばそれで終わりであるが、経営者・マネージャー自身がデータ分析の活用を強力に推し進めれば大きな力となる(少なくとも可能性はある)ということだ。

この点、分析の話題で目立つのが現場の分析者かせいぜい数人程度のチームを率いるリーダーぐらいで経営者が出てくることはまずない日本の事情とは大分異なるようで、経営者・マネージャーによる積極的な関与が見られるのはアメリカの特徴であろう(というか日本が特殊すぎると言う方がおそらく正しい)。そして、この上層部の関与と後ろ盾があるかはデータ分析の成否に関わる本質的かつ決定的要因であるということはもっと広く理解されるべきだ。

どこでも起きることは大体同じ

ビジネスにおけるデータ分析の実例として経営者・マネージャーに最も有効だが、分析者側も十分活用できる。本文中からその中でも特に有用であろう部分をいくらか引用してみよう。

この10年間、メジャーリーグのほぼ全球団が、データ分析のための専門家を少なくとも1人は雇用している。けれども、そうした分析官からしばしば聞こえるのは、自分達の調査が実際の試合でほとんど活用されていないという不満だ。(中略)たとえフロントの作成した計画がこれまでになく美しく、劇的なものだったとしても、監督やコーチに受け入れられなければ、それが機能することもない。

これはいつでもどこでも起きる問題だ。データ分析チームを作ったところで現場がすぐに動くことは無いので経営者・マネージャーによるバックアップが必要であり、時には反対を押し切ってでも推進しなければならない時がある。パイレーツの場合は監督のハードルが受け入れたことで機能したが、多くの企業では反発を恐れてうやむやにすることで失敗する。

このような伝統的な守備位置は、100年以上にわたり、裏付けの乏しい証拠に基づいて続けられてきた。19世紀から20世紀にかけて、選手たちや監督たちは個人的な記憶や観察だけを基準にして、守備位置に関する決定を下していた。
しかし、野球が産声をあげて以来、誰もが-選手も、コーチも、監督も、全員が間違っていたとしたら?

今まで長い時間をかけて蓄積されてきた知識や経験をおろそかにはできない。しかし一方で、それを常識として盲信することはまた危険でもある。その常識が覆されようとする時にほとんどの人が見ないふりをしたりする中で間違いを認められる人は貴重だ。

メジャーリーグのほとんどのチームが少なくとも1人は数学と数字に強いオタク系のスタッフを採用していたが、ミーティングの常連だったりチームに帯同してアメリカを回ったりしていたデータ分析官は、2013年の時点でパイレーツのフォックスとフィッツジェラルドのほかにはいなかった。
(中略)
2013年、野球界には古い教えの信奉者と新しい教えの信奉者との間にコミュニケーションの壁がまだ歴然と存在しており、相手への敬意が欠如していることすら珍しくなかった。分析官とグラウント内のスタッフや選手たちは、多くの場合全く異なる人間だ。経歴も、気性も、偏見も、大きく異なっている。野球界の分析スタッフからしばしば聞かれる不満の声は、データに基づいた自分たちの発見が必ずしもグラウンド内に届いていないと訴える。けれども、ピッツバーグでそのような不満が聞かれることはなかった。

分析官とプレイヤーのコミュニケーション。これが現場レベルにおける成功の第一の要因である。どんなに素晴らしい分析であってもそれが受け入れられないのであれば全て無駄になってしまうが、その断絶を埋める方法はただ1つ、分析官側が歩み寄ることでしかないのだ。

他にも紹介したい文章はいろいろあったが、楽しみを奪わないよう3つに絞った。分野は違えど、どこでも起きることは大体同じであり、ということはどうすればうまくいくかを学ぶこともできるのだ。

この書籍から学ぶべきこと

それにしてもこれほどまでにデータに対する考え方、取り組み方の文化が違うものかと驚く以上に恐ろしい。国家政策からビジネスまで、ありとあらゆる分野であまりに意識も経験も人材も違いすぎると感じるのは自分だけではあるまい。また、パイレーツが新しい取り組みを出して結果を残した翌年の春にはすでに他球団での模倣が始まっている。もし日本でパイレーツと同じ取り組みがなされたとして、模倣されるまでにどれぐらいかかるのだろうか。いや、そもそも常識破りの取り組み自体が成立しないか?

ともかくも、より良ければ学んだばかりの新しい物事を即座に取り入れるのはアメリカの大きな美点であると思うが、データへの取り組み方と合わせて大いに学ぶべきだと考える。

■目次

  • 第1章 話し合い
  • 第2章 過去の亡霊
  • 第3章 データの裏付け
  • 第4章 隠れた価値
  • 第5章 前進あるのみ
  • 第6章 守備シフトによる挑戦
  • 第7章 消耗
  • 第8章 金を生み出す方法
  • 第9章 選ばれなかったオールスター
  • 第10章 地理的な問題
  • 第11章 投手の育成と負傷の予防
  • 第12章 魔法の演出
  • エピローグ 季節は巡りて

■概要

題名ビッグデータ・ベースボール
著者トラヴィス・ソーチック
訳者桑田健
出版社角川書店
発売2016/03

ビッグデータを活用して、お金をかけずに強いチームをつくれないか? 20シーズン連続負け越しという不名誉な記録をつくってしまったピッツバーグ・パイレーツに起こった、2013年の奇跡の物語。《出版社サイトより》

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タグ:書籍 ビッグデータ データ分析

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