データ分析とインテリジェンス

二重スパイ コード・ネーム《ガルボ》

■国を挙げてドイツを騙した英国と、それに加担した「ドイツのスパイのふりをして英国のスパイになったスペイン人」の物語

第二次世界大戦中、英国ではドイツのスパイを寝返らせて英国のスパイとさせる二重スパイとし、ドイツに偽情報を送るダブルクロス・システムを作り出した。その中でも最も重要であったと評価されているのが本書の主人公・暗号名「ガルボ」だ。

英国に潜入を試みるもすでにエニグマの解読により事前ばれていて待ち伏せをくらって捕まり、殺されるか二重スパイになるかの選択を迫られた上で二重スパイになることを選んだ他のスパイとは異なり、ガルボの場合は英国のスパイになるためにまず進んでドイツのスパイに名乗り出て、それから英国のスパイになった、という変わり種。

その後ガルボは英国に移され、そこから英国と協力して27人もの架空のエージェントをでっち上げ、ドイツに偽情報を送り続ける。それゆえガルボは1人ではなくMI5のケースオフィサー、トマス・ハリスとの合作であると著者はいう。

原題は「The Spy With 29 Nemas」で、これは27人の架空のエージェント+ドイツ側の暗号名「アラリック」+そして「ガルボ」で29とのこと。この27人のエージェントはすべて架空の存在ながら、行動やメッセージに矛盾が起きないように様々な人物像が設定され、何人かのエージェントについては実際の人物がその役を演じるということまでしている。時には架空の人物をそのモデルとなった人物が実際に演じるのである。

これだけの架空の人物を存在しているように見せかけなければならない。部隊が駐屯している場所にいるのに報告を送らないのでは疑われてしまう。そこでこのエージェントは病気で入院ということになった。であれば報告が送られないのはやむを得ない。そして結局このエージェントは回復することなく死亡するが、手の込んだことにMI5が偽の死亡広告を新聞にだし、その広告を証拠として送るのである。さらにその未亡人(当然これも実在しない)もまたエージェントとして積極的に参加させるという手の込みようだ。

ここまでしていったい何をしたかったのかといえば、最終的な目的はノルマンディー上陸作戦を成功させること。そのために1つは上陸地点の偽装と、もう1つは主な攻撃はパ・ド・カレーでありノルマンディーは牽制であると思わせ、増援を送らせないこと。ハイライトはまさにノルマンディーに第一SS戦車師団が向かっているその時にガルボから送られたメッセージがやがてヒトラーに届き、移動を中止させる場面だ。結局パ・ド・カレーの第15軍は米第一軍集団(通称FUSAG。これもまた架空の軍隊・ただし指揮官はパットン中将でこちらは本物)を待ち続けてノルマンディーに向かわず、上陸作戦は成功する。

騙されたドイツ側、とくにマドリードでガルボを動かしている(つもりの)キューレンタールはいい面の皮であるが、ことはそう単純でもない。実はキューレンタールはガルボは二重スパイではないかと疑っていたのではないかという話も紹介される。というのもキューレンタールはユダヤ人の血が流れており、有用さを示さなければ自分の身が危ない状況の中で功績のために見て見ぬふりをしていたのではないか、ということだ。

もはや何が真実で何がウソなのかわからない。第二次大戦中、英国はダブルクロス作戦では40人ものエージェントが存在して運用していたのによくばれなかったものだし、他にも奇抜な「ミンスミート作戦(死体に偽の上陸作戦の資料を持たせて相手に届くように仕組んだこれも偽装作戦)」を行っていたりとよくもまぁこんなことを思いつくものだと感心するのと同時に、もしも日本に同じような作戦が仕掛けられたらもっと簡単に引っかかったりするのかな、なんて考えてみる。

つい先日読んだばかりの『最高機密エージェント CIAモスクワ諜報戦』も非常に面白く今年のベストは決まりか?と思っていたが、こちらも捨てがたい。もしかして2016年はインテリジェンス本の当たり年と呼ばれる日がくるのかも。

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タグ:書籍 スパイ インテリジェンス ダブルクロス 英国のインテリジェンス


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