データ分析とインテリジェンス

太平洋の試練 真珠湾からミッドウェイまで(上)

■書評・感想

今月になって文庫が発売されたのでちらっと見ていたら「3月に続編の『ガダルカナルからサイパン陥落まで』が発売された」と見かけたのでそれではということで棚から引っ張り出してきた。

上巻の前半では日本の真珠湾攻撃・マレー沖海戦といった「日本軍が勝っていた戦い」から、戦前の日本の状況、そして連合艦隊司令長官山本五十六と、真珠湾の責任(本文中にもスケープゴートにされたとある)キンメルに変わって太平洋艦隊司令長官となったチェスター・ニミッツそれぞれの人物像が描かれる。後半ではチャーチルの訪米とマーシャル諸島へのアメリカによる奇襲まで。

下巻の『ニミッツは決断する。「情報力をもって戦力差をあえてひきうける」』という文章にひかれて情報戦の記述を期待していたものの上巻ではあまり記述がないのが残念であるが、一方で破竹の勢いで進撃していた日本側の歴史では描かれないアメリカ側の動きについての描写があったことは収穫であった。なお、ニミッツの情報参謀であるレイトンはちょっとだけ出てくるが、後に日本の暗号を解読するロシュフォートは名前も見当たらない。

アメリカ視点で「負けていたアメリカが強大な敵に立ち向かって巻き返す」なんてまさにアメリカ好みなのだろう、そのために日本が必要以上に悪者(というか得体のしれない連中)に描かれている感もあり、南京とか三光作戦とか特に考えず書いているのだろうし、ハルノートを日本がどのように受け取ったのかとかロンドン軍縮会議における暗号解読には触れていない(この話はのちに当の本人であるヤードレーが書いた暴露本『ブラック・チェンバー』に詳しい)など突っ込みどころはあるが、それはそれとして真珠湾以降ミッドウェーまでの戦史としてよくまとまった本になるのではと下巻にも期待が持てる。

そんな中で、日本とアメリカの違いを考えさせられる一文がある。

「連中の海軍はわれわれよりすぐれていた。より優秀な飛行機、より訓練された兵員、よりよい夜間訓練、はるかに優秀な魚雷」と理解するようになっていた。

彼らは現実を受け入れる失敗から学び、そしてそれを克服しようとした。一方で日本は真珠湾やマレー沖海戦での航空攻撃の成功から学ぶことなく大鑑巨砲主義から最後まで抜けきれなかった。情報戦を見ても、真珠湾での情報の失敗からOSSを立ち上げ戦後CIAを含めた世界最大の情報コミュニティを持つまでになるアメリカと、情報部アメリカ班の陣容が整うのが開戦2年を経てからであり、戦後は国家情報機関も持たずに今に至る日本の違いはとてつもなく大きいが、一事が万事ということなのだろう。

■関連書籍

太平洋の試練 真珠湾からミッドウェイまで(下)

■目次

  • 序章 海軍のバイブル
  • 第一章 真珠湾は燃えているか
  • 第二章 ドイツと日本の運命を決めた日
  • 第三章 非合理のなかの合理
  • 第四章 ニミッツ着任
  • 第五章 チャーチルは誘惑する
  • 第六章 不意を打たれるのはお前だ

■概要

書名:イアン・トール
翻訳:村上 和久
発売:2013/06(単行本) 2016/02(文庫)

山本五十六は言った。「あれで、真珠湾をやれないかな…」戦争の勝敗は、戦艦を中心とする艦隊が一気に敵を殲滅する海戦で決する。古今東西の海戦を研究したアナポリスの教官が書いた一冊の本が日米両海軍の理論的支柱となった。ところが、日本海軍に生まれた一人の異端児が、その教義に根本的な疑問を抱き空母の艦隊による航空一斉攻撃という革命的手法を発案する。

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タグ:書籍 太平洋戦争 真珠湾攻撃 ミッドウェイ海戦


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