データ分析とインテリジェンス

CIAの秘密戦争

■書評・感想・・・9/11後のCIA史。秘密戦争とは要するに特殊部隊とドローンによる暗殺

本書は、パキスタンでの活動を中心とした9/11後のCIA史である。暗殺の復活、ペンタゴンとの主導権争い、本来の役割であるインテリジェンス収集、分析よりも暗殺をはじめとした秘密活動に力を入れるCIAと外注される戦争に群がる人々、ドローンで暗殺されるアルカイダの幹部や、誤爆に巻き込まれる多くの一般市民・・・戦後南米などで行われていた政権転覆などの謀略事件を思い出させるのは結局のところCIA(というかアメリカ人)の性癖なのだろうか。読んでいてずっと思っていたのは「いったいこいつら何をしているのだろうか?」であった。

「CIAがこれほどOSSに似たことはなかった」とCIA長官だったマイケル・ヘイデンが語っている。OSSと言えば欧州でのサボタージュやら心理作戦やら情報機関というより英国のSOEのようなことをやっていたイメージ(両方とも日本語で読める書籍がないのであちこちで聞きかじった話による)なのだが、あながち間違っていないのかもしれない。

それでもアメリカ政府によるテロリスト暗殺は69%もの支持がある(P358)という。どこまで実態が伝わった上での判断かはわからないが、それでもこれだけの支持があるのであれば簡単には止められまい。そしてまたテロの連鎖が続いていくことになるのだろうか。

さて、とはいえインテリジェンス組織の話なので、そこからビジネスシーンでもよく見かける話がいくつか見受けられる。どこでも人がやっていると変わらないものだなと思わせる話なので紹介しよう。

企業でもよく見る風景その1・評価につながるかで人は動く

こうした上層部の注目により、CIAが作成する分析報告がゆがむという影響も現れはじめた。視野狭窄的で、より戦術的な分析をするようになったのである。(中略)大統領に聞いてもらえる報告書を作成することがCIAでの出世の早道になったことは、分析担当者たちには一目瞭然だった。

大局的、長期的な分析よりも上司の目先の関心が高い内容の方が評価されるのであれば当然そちらに注力する。それはどこの組織でも同じということだが、当たり前だろう。

企業でもよく見る風景その2・体育会系とオタクの対立

体育会系の準軍事活動担当官はオタク的な分析担当官を敬遠し、一方の分析担当者は準軍事活動担当官を粗野で頭が悪い連中だとみなす。

これはあなたの企業の話ではなく、本文中にCIAの話として書いてある。ちなみに、「体育会系」とか「公立高校の雰囲気に似ている」と書かれているのだが、原書にそう書いてあるのかあるいは日本向けに意訳しているのかは不明。

企業でもよく見る風景その3・自分の業績を自分で評価する

問題は、CIAが秘密工作と分析の両方を担当しているために、個別の秘密工作の効果を評価するときに「バイアス」がかかる可能性があることだ、とカンボーンは指摘した。言い換えれば、CIAは自分の業績を自分で評価していたことになる。

もはや説明不要であろう。

繰り返すがこれらはCIAの話として書いてあるのだ。個人的な経験を書いたのではない(が、書いたら同じようなことになることは保障する)。どうやらこのあたりの事情も変わらないらしい。

インテリジェンスはもっと読まれるべきジャンルだと思うのだけれど

CIAというと「スパイに学ぶ仕事術」みたいななんだかよくわからない書籍が多いなかで、こうしたしっかりした書籍が翻訳されるのは非常に嬉しい。最近のCIA関連なら、イラク戦争当時のCIA長官だったジョージ・テネットの回顧録「At the Center of the Storm LP: My Years at the CIA」も読んでみたいのでもっとこういった本が売れれば翻訳ももっと盛況になるだろうが、現実はそうはいかないのだろう。

なお、情報機関の暴走について日本で議論されない理由は簡単で、そんなの存在しないか、あっても規模が小さく問題にならないからというだけの話である。

■関連書籍

  • 『CIA秘録(上)』・・・CIAの創設からイラク戦争までの通史。トンキン湾事件まで。
  • 『CIA秘録(下)』・・・同じくCIAの創設からイラク戦争までの通史。ベトナム戦争以降。
  • 『トップシークレット・アメリカ』・・・9/11以降肥大化したアメリカ情報機関について。NSAの話が多い。

■目次

  • プロローグ 彼方の戦争
  • 第1章 殺害許可
  • 第2章 スパイ同士の結婚
  • 第3章 暗殺部隊
  • 第4章 ラムズフェルドのスパイ
  • 第5章 怒れる鳥
  • 第6章 真のパシュトゥーン人
  • 第7章 曖昧化する任務
  • 第8章 代理戦争
  • 第9章 基地
  • 第10章 前線なきゲーム
  • 第11章 「親父さん」の復活
  • 第12章 メスの刃
  • 第13章 アフリカ・スクランブル
  • 第14章 破綻
  • 第15章 医者とシャイフ
  • 第16章 空から落ちる火
  • エピローグ 引退者コミュニティのスパイ

■概要

題名CIAの秘密戦争
著者マーク・マゼッティ
訳者小谷賢 池田美紀
出版社早川書房
発売2016/02

《出版社サイトより》2001年の9・11同時多発テロ後、アメリカの情報・軍事政策は一変した。中東やアフリカの各地で、中央情報庁(CIA)は無人機に頼った暗殺作戦に血道を上げる準軍事組織に様変わりし、一方で国防総省(ペンタゴン)は自前のスパイ組織を立ち上げ、特殊部隊が 正規の戦場の外でテロリストを狩り始める。両者は互いの縄張りを奪い合い、次第に確執を深めていく――。インテリジェンスと安全保障分野に精通し、CIAと対テロ戦争の最前線を追い続ける《ニューヨーク・タイムズ》のトップ・ジャーナリストが、膨大な取材 をもとに劇的に変貌を遂げつつある世界最大の情報機関と「影の戦争」の実態に光を当てる。海外メディアで絶賛を浴びた闇のクロニクル。解説・小谷賢(防衛研究所主任研究官)。

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タグ:書籍 CIA インテリジェンス


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